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2008.05.08 (Thu)

SS ~『矜持が呼ぶ体験談』~

(前書きを飛ばして早くSSを読みたい方は[Read More…]からどうぞ)

さて、まずはやはり記事を充実させようと思いまして、SSを公開しようと思います。
元々私は小説掲示板に投稿しているので、今までの作品を処女作から順番に公開していこうかと思っていた訳ですが、過去の作品は加筆・修正が必要かなぁと。
そこで、わりと最近のもので、自分の作品の中では先陣を切るのにまぁ相応しいのではないかと思われるものを。第一弾から長めの作品となってしまいますが。
それでは、本文は続きから↓

【More・・・】

『矜持が呼ぶ体験談』

執筆者 jihad   
完結6作目
執筆開始 2008/2月初旬
完成 2008/3/4
初出 2008/3/3,4 [ひなたのゆめ]ハヤテのごとく! / サブ小説感想掲示板
文章量 約26KB

・3月3日生まれの桂ヒナギク誕生日記念として書いた短編。


---------------------------------------



~ 矜持が呼ぶ体験談 ~

(1)

虫たちも長い眠りから徐々に目覚め始め、暖かな空気が春の訪れを感じさせる。
常にその枝に緑を纏わせる常緑樹と、それぞれ異なった早さで新たな生命を宿らせる落葉樹。
どんな季節でも、その時々によって様々な美を魅せるように計算され、配置されている。
それら人と自然が調和した風景に、生徒の花が伸び伸びと咲き誇る白皇学院は、穏やかさと躍動感が入り混じった春独特の活気に包まれていた。

心地よさと眠気を誘う木漏れ日が差す、白皇学院のカフェテリア。
午前中4時限の戦いを終えた戦士たちは、暖かな陽のぬくもりと優雅なランチタイムを求め、この場を賑わせる。
磨き上げられた白いテーブルの上には、カフェテリア自慢のサンドウィッチや、紅茶あるいはコーヒーなどが並び、生徒たちを笑顔にさせる。
そんな中に、お喋りに華を咲かせる四名の女子生徒たちの姿があった。

「で、結局チャンス逃しちゃって~、一週間後くらい後に彼女が出来たらしいって話を聞いてショックなわけよ~」
「あちゃー、それは勿体無い……」
「その時、勇気出して言っちゃえば付き合えたかもしれないのにねぇ~」
「ね。私も惜しいことしたなって後悔しちゃってるわけよ」

どうやら恋愛話に興じているようだ。
一人が話し、それに二人が相槌を入れるといった構図が続いている。

「まぁまぁ、あなたならその内もっといいヒトが見つかるわよ」

半分ほどに減った香り漂うダージリンのカップを置き、微笑みながらそう慰めるのは先程から聞き役に徹していた残りの一人。
――白皇学院生徒会長、桂ヒナギクその人である。

「だといいんだけどねぇ……」

女子生徒の方も、苦笑交じりにカプチーノを一口傾ける。

「まぁ、一口にデートって言っても難しいと思ったよ」
「私なんか、そこまでこぎつけたことすらないし」
「あたしもぉ~」

まだ十六、七歳の少女たちは、上手く行かないもどかしさに共感し笑いあう。
そんなのどかな光景にそっと微笑み、カップを傾けながら再び聞き役に徹していたヒナギクだったが、不意に放たれた女子生徒の一言によって波乱の渦に巻き込まれることとなる。

「そういえば、桂さんならそういうデートの時ってどうする?」
「へ? わ、私?」
「あ、それ私も聞きたいな~」
「あたしも聞きた~い!」

全く予期していなかった話の振りに、面喰らうヒナギク。
あらゆる面で秀でた彼女も、こと恋愛となると何も言えなかった。

「私は――」
「きっと会長のことだから、上手くいく方法とかいっぱい知ってるんだろうね~」

(うっ……)
そういうの詳しくないから、と言おうとした矢先に放たれた一言に、思わず詰まる。
そして加わる他の二人の追撃。

「桂さんのデートプランとか秘訣とか、興味あるわね~」
「ほらほら、もったいぶらないで教えてよ、生徒会長殿~」

肘でうりうりと小突く女子生徒たちは、今の言葉が起爆剤であったことを知らない。

『桂さんなら知ってるだろう』
『あの優秀な生徒会長なら』
様々な場面でかけられた、こういった類の言葉。
些細なことでも、困っている人は迷わず助けてきた行動力。
"白皇学院生徒会長"という矜持。
そして何より、負けず嫌いなその性格。

これらが、ヒナギクの闘志に完全に火を点けてしまった。
(そうよ、私は生徒会長、桂ヒナギクなんだから。困ってる生徒は放っておくわけにはいかない!)
生徒会長という肩書きを都合よく盾にして、矜持が暴走する。

「ま、まぁ全然知らないというわけでもないけど?」

既にヒナギクの中に、素直に知らないと言う選択肢は消えていた。
よく知っている、とは言わないことでどうにか嘘にならないようにする。
とは言え、いくら才色兼備の生徒会長でも、ほとんど知らないことを言うことはできない。

「で、なになに?」
「どーすればいいの、会長?」
「それはねぇ……」

詰まり困るヒナギクに、その時救いの手が差し伸べられる。
学院中に鳴り響くチャイムの音が、今の彼女には福音にさえ聞こえた。

「あ、もう予鈴だわ、急がなきゃ!」
「ちょ、ちょっと桂さん?」

素早く食器を纏め、席を立つヒナギク。

「じゃあ、また今度ねっ!」
「えぇ~」
「せっかくいいこと聞けると思ったのにぃ~」

駆け足で校舎へと戻りつつ、胸を撫で下ろすヒナギクであった。




***




「というわけなんだけど……どうすればいいのかしら?」

放課後、陽も沈みかけた頃。
ここはガーデン・ゲート最上階、天球の間。
生徒会の仕事を片付けたヒナギクは、珍しく生徒会室に来ていた瀬川泉、花菱美希、朝風理沙に昼休みの出来事を話していた。
もちろん来ていたとは言っても、せっせと仕事をするヒナギクを尻目に三人がサボっていたのは言うまでも無い。
これが普段であったら、仕事をやりなさい、と一喝され逃げるのがお決まりの光景であったが、今日のヒナギクは昼間のことで頭が一杯だった。
お陰で三人は優雅なアフタヌーン・ティーを満喫できた訳だが、さすがにおかしいと思いヒナギクに問うたのであった。

「成程、しかし、我らが優秀な生徒会長にできるアドバイスなど……ない!」
「無いわね」
「あるわけない♪」

いばるな、と言おうにも、今回は自分が相談している側なだけに何も言えない。
どうしてこんな厄介なことになったのだろう、と後悔しても後の祭りだった。

「でも、本当にどうしたらいいのかしら……」
「素直に分からないと言うわけには……いかないか」

理沙の一言に、俯きかけていたヒナギクの顔が上がる。

「そういうわけには……だって私は――」
「生徒会長だもの、困っている生徒を放っておくわけにはいかないわ、だよね?」
「え?」
「まぁ内心は、分からないと言うのは負けた気がして嫌とかそんなところだと思うけど」

泉にセリフを先取りされ、美希に本心を言い当てられる。

「ちょ、ちょっと美希、それどういう意味よ?」

反論するも、顔が真っ赤なので何も説得力がない。
その様子を見て楽しんだ様子の美希は、爆弾を一つ投下する。

「どうしてもその役立つアドバイスとやらをしたいのなら、自分で見つけてみればいいじゃない」
「……どういうこと?」
「実際にデートでもしてみれば? ハヤ太君あたりと」

それを聞いたヒナギクは、数秒の間固まり――

「えぇっ!? 実際にやってみるって……
 し、しかも、なんでよりによってハヤテ君が出てくるのよ!」

――爆弾は見事に爆発したのであった。

実は密かに想いを寄せている相手に向かって"よりによって"とは酷い言葉だが、羞恥と焦りの産物だった。
そんなヒナギクの内心が手に取るように分かる美希は、しれっともう一言。

「だって仕方ないじゃない。誰も分からないんだから」
「うっ……」

誰も分からないのだから、実際に体験してみるしかない。
至極まともな意見であるが、気恥ずかしさやら何やらで一杯のヒナギクは焦るのみ。

「だ、第一いきなりデートって言っても、どこで何をすれば――」

ヒナギクが反論を試みた時、丁度ドアが開き会話が遮られる。

「会長、出来上がった書類を持ってきましたが……先程から何事です?」
「あ、ハル子……いや、別になんでも――」
「「「実は……」」」

入ってくるなり呆れ顔の春風千桜に、ヒナギクの声を遮り三人が概要を話す。

「会長がデート……ですか?」
「だ、だから私は別にやるなんて言ってないわよ!」

怪訝な顔で思案する千桜であったが、ふと何か思いついた顔で制服のポケットに手を入れる。

「そういえば先日、咲……いえ、知人から貰ったテーマパークのチケットが……」
「おぉ、ちーちゃんナイス!」

思いがけない人物から決定打が放たれ、ヒナギクは顔を机に突っ伏し何も言えなくなった。

「じゃあ、ハヤ太君は私たちが何とかして誘っておくから。ヒナは当日どうするかでも考えておいて」

これからの行動を話し合う三人組と、処分に困っていたチケットを活用できてほっとする千桜を見つつ、ヒナギクは腹を括ることとなった。


(2)


明くる日の放課後、作戦の第一段階が始動した。
ちなみに昼休み、ヒナギクは生徒会の仕事と理由を付け生徒会室に籠り、昨日の女子生徒たちとの会話を回避していた。

ホームルームの時間も終わり、生徒たちはバラバラと部活、委員会、あるいは自宅へと向かってゆく。
半数ほどはすぐに教室を後にし、室内はまばらになってくる。
教室、廊下、外とあらゆる場所から、開放された生徒たちの賑やかな話し声が響く。
そんな中、ゆっくりと帰り支度をしているターゲット、綾崎ハヤテに近づくのは美希であった。
ハヤテの主である三千院ナギは症状の伴わない病気、もといサボりで欠席。
作戦を決行するには絶好の状況である。

「なぁ、ハヤ太君。ちょっといいかな」
「何でしょうか、花菱さん」

律儀に帰り支度を中断し向き直るハヤテに、さらりと話を切り出す。

「実は、最近できたテーマパークの無料券を貰ったんだ。
 泉や理沙と一緒に遊びに行くことになっていたんだが、二人の都合が急に悪くなったみたいで……
 チケットも勿体無いし、一緒にどうかなと」
「え、僕とですか?」

心底意外そうに目を丸くするハヤテに、少し意地悪な一言。

「ん……私とでは不満かな?」

無論、微妙な上目遣いのおまけは、身長差ということもあるが意識的なものである。

「えっ、いやっ、全然そんなことは無いんですけどっ!
 その……ただちょっと意外だったというかっ……」

思った通りに慌てるハヤテに、美希は内心おかしくてたまらなかったが、顔は平然としたまま話を続ける。

「そう……ならいいけど。で、結局返事は?」
「あ、僕で良ければ。いつですか?」
「明日」

一瞬の沈黙が流れ、ハヤテの困った声が響く。

「いきなり今日の明日で休みが取れるか分かりませんが……何とか頑張ってみます」
「そうか、ありがとう。これがチケットだから」

ハヤテにチケットを差し出し、思い出したように付け加える。

「……あ、そうそう、服はちゃんと私服を着てくるんだぞ」
「私服……ですか?」
「レディーと出掛けるんだ、ちゃんと映えるような格好をするのが当然だろう」

ハヤ太君の場合執事服より私服の方が新鮮味があって面白そう、という本心は隠して適当に理由を付ける美希。

「そうですか、分かりました。それではまた明日」

ハヤテは帰り支度を整え、教室を出て行った。

「また明日」

その背中に声をかけつつ、まぁ明日は会わないけど、と心の中で付け足す。
作戦の第一段階を難なく終えた美希は、小さく笑みを零した。
飄々と嘘の口実を並べ誘いをかけるのは、持ち前のポーカーフェイスを持ってすれば何という事はなかった。
ただ一つ、誤算があったとすれば――

「あ……」

教室にまだ残っていた生徒たちの内、近くにいた数人がニヤニヤとこちらを見ていた事。
ヒナが誘っていたら目立つ上に大騒ぎだったな、と呟きつつも、珍しく顔を赤らめながら足早に去ってゆく美希であった。



***


「と、まぁそういうわけなのですが……明日お休み頂けますかね?」

夕食後、ハヤテはナギとマリアに休暇を願い出ていた。
が、熱烈勘違い続行中のお嬢様の返事は勿論……

「な、ならんぞハヤテ! そ、そんな……他の女と一緒に出掛けるなど……絶対ダメだ!」
「えーと……」

何でこんなに凄い剣幕で否定されるのでしょう、と困るハヤテ。
ナギとすれ違っている上に天然が重なっているのだから、美希の件を伏せて単に休暇を願い出る芸当ができないのは言うまでもない。

「まぁまぁ、ハヤテ君もここ最近休み無しでしたし、たまにはいいんじゃないですか?」

その状況を見かねて助け舟を出すのはマリアの役目。

「し、しかし……」
「たまに友達と遊び行くくらい、許してあげてもいいじゃないですか。
 ハヤテ君にもたまには羽を伸ばしてもらわないと、ね?」

なお食い下がるナギに、柔らかな笑顔で一押し。
さり気なく「友達」を強調しておくあたりが、ナギの心理をよく汲んだ熟練の技か。

「う、うむ……まぁいいだろう。ただし、明後日は目一杯相手してもらうからな!」

どうせ相手が相手、間違ってもおかしいことにはならないだろう、としぶしぶ同意するナギだった。
ハヤテの相手がヒナギクや歩だと聞いていたら、こうはいかなかったかもしれない。
ヒナギクに直接ハヤテを誘わせなかった美希も、この心理をよく読んでいたのであろうか。

「ありがとうございます。お嬢さま、マリアさん」
「後片付けは私がやりますから、今日はもう部屋に戻っていいですよ。
 明日の準備でもゆっくりしていて下さい」
「はい、それでは」

部屋に戻るハヤテの後姿を見送りつつも、マリアの胸中は中々複雑だった。
(しかし、テーマパークに二人きりで出掛けるって……普通に考えたらデートですわよねぇ……)
西沢さんやヒナギクさんに加えまさか花菱さんまでも、とマリアの中での天然ジゴロ認識が上がったことは、ハヤテには知る由も無かった。



***



部屋に戻り、ベットに腰掛けるハヤテ。

「準備って言われてもなぁ……」

準備と言っても、服と荷物を纏めるくらいのものである。
無一文、身一つの状態で雇われたハヤテには、私服など出掛け用にナギやマリアが選んだ物程度。
所持数自体がさほど無いため、着る服の組み合わせなどすぐに決まった。
荷物も財布と携帯を持つ程度。
すぐに準備を終えてしまったハヤテは、いつもなら夕食後の後片付けなどをしているこの時間、暇であった。

そのまま上半身を倒して寝転び、手持ち無沙汰に昼間受け取ったチケットを見る。

「しかし、まさか花菱さんから誘いを受けるとは……」

そう呟きつつチケットに書かれた文字を読んでいると、ある一文が目に入った。
『このチケット一枚で、二名様まで無料でご入場できます。』

「えっ……二名様?」

ここで思い出すのは夕方の美希の言葉。
『テーマパークの無料券を貰ったんだ。泉や理沙と一緒に遊びに行くことになっていたんだが』
そう、二名までの無料券を貰って、三人で行くことはできない。
考えられるのは二枚以上貰った内の一枚を渡されたか、さもなければ誘う為の嘘の口実だったか。

(こ、これってもしかして……いつの間にか花菱さんエンドのフラグが立ってた?)

いつもなら前者で考え納得しそうなハヤテだが、今回思い至ったのは後者であった。
ナギや歩、ヒナギクといった本当の好意には全く気づかないくせに、勘違いに顔を赤らめる。
以前マリアに『年上と年下どちらが好きか』と問われた時といい今回といい、何故かありもしない好意には思い至るとはどういうことだろうか。
こんな様子だから陰で"天然ジゴロ"と称されるこの少年は、この夜は中々寝付けなかったのだった。


(3)


涼しく澄み渡った朝の空気に、暖かく差す太陽の光。
電線に並ぶ小鳥はさえずり、街は平日より穏やかに動き出す。
休日の朝独特の雰囲気が、何とも心を清々しくさせる。
そんな中、白皇学院の最寄駅からは一つ隣の駅の前にある広場。
美希から指定されたその場所に、ジーパンとTシャツ、パーカー姿のハヤテが立っていた。

「ちょっと早く来過ぎたかなぁ」

駅のホームへ出入りする家族連れやカップルなどが通る中、あたりを見回しては数分置きに駅前広場の時計を眺める。
約束の時間の40分程前に着いたハヤテは、他にすることもなく同じ行動をずっと繰り返しているのだった。

「ふぅ……それにしても、何だか少し緊張するなぁ」

昨夜の推測については、こんな僕相手なんだからきっと深い意味は無くたまたまだろう、とのことで一応結論付けたものの、まだどことなく落ち着かないハヤテ。
約束の時間の5分程前になる頃、そこに声がかかった。

「あの……ハヤテ君?」
「あ……え? ヒナギクさん!?」

振り返り相手を確認するなり、予想外の人物の登場に驚くハヤテ。
とは言っても、予想外だったのはハヤテだけであったのだが。

「あ、ほら、その……さっき偶然そこで美希に会って。
 何か急用ができたみたいで、ハヤテ君との約束をすっぽかすのも悪いから私に代わりを頼む、って……」
「あ、そうだったんですか」

事情を聞いて、幾分驚きや焦りが和らいだ様子のハヤテ。
最も、ヒナギクがさっき偶然会ったと言う割には、普段より随分とおめかしに気合が入っているということに気づく余地は無かった。

「じゃあ、行きましょうか」
「え、ええ、そうね」

一つ隣の駅であるため、白皇学院生に見つかることもなくホームへと向かう二人。
もし男子生徒に見つかってでもいようものなら、ハヤテが無事に電車へ乗れることは無かったかもしれない。




***




「うわぁ、凄い人だかり……」
「そうですね……」

入場して早々、感嘆の声を上げる二人。
電車の中では、あまり居心地の良くない沈黙を味わっていた二人。
ヒナギクは元よりぎこちなく、ハヤテも改めてヒナギクと二人きりという状況を考えると昨夜と同じような緊張が戻っていたのであった。
しかし、大小様々な建物が並ぶ中、たくさんの人や着ぐるみの波を見るなりそんな感覚は消え失せた。

「さて、どうします?」
「う~ん……とりあえず適当に見て回ろっか」

ヒナギクは事前に軽く下調べはしたものの、建物やアトラクションがありすぎて中々計画が立てられなかった。
結局、適当に回り気になった店やアトラクションに入るのが良いだろうと思い本番に臨んだのだった。


「しかし、本当色んなものがありますね~……」
「そうね。というより、何かごちゃごちゃしてるというか……」

歩き回りつつ、二人がそう思うのも無理はなかった。
ジェットコースターやメリーゴーランド、コーヒーカップといった遊園地定番のアトラクションに加え、得体の知れない謎のアトラクション。
様々なジャンルのレストランに屋台、土産物店。
果ては洋服屋にアクセサリー店、本屋に美術館にゲームセンターと、ここだけで全ての買い物と遊びが事足りそうな勢いだった。
おまけにメイドカフェまであったものだから、もはや製作者の意図が分からない。

「そもそも、テーマパークって言ってもこれの一体何がテーマなのかしら?」
「えぇーと、一応パンフには『皆の顔と心に笑いを、SMILE LAND』って書いてありますけど……」
「確かにある意味笑えるけど……」

とてもテーマで統一されているとは思えない入り乱れた光景に、苦笑する二人であった。
ちなみに、パンフレットの下部に書かれた『愛沢グループ提供』の文字に気が付くことは無かった。



「あ、ハヤテ君、ここ見てもいいかしら?」
「いいですよ、入りましょうか」

二人が入ったのはアクセサリーショップ。
ビーズや木などで出来た簡単で手頃な値段のアクセサリーから、高校生の小遣いではかなり厳しいような貴金属類まで、目移りしそうなほど種類が豊富だった。

「うわぁ~、たくさんあるのね」

普段装飾類といえばヘアピン程度しか身に着けないヒナギクも、この品揃えにはかなり興味を持ったようだった。

「あ、これ可愛い」

色々な品を手に取り眺めつつ店内を回っていたヒナギクだったが、ある一品が目に入った。
それを手に取り、横から見たり上に翳して光に当てたりと、中々に気に入った様子だった。

「確かに綺麗ですね~」

ヒナギクが手に取ったのは、蝶を模した繊細な装飾が付いたネックレス。
ハヤテがふと置いてあった棚を見ると、値札があった。
その値段、三千円。
借金の返済にほとんどを充てているハヤテでも、手の届かないことは無い値段だった。

(どうせチケット代は浮いてるし、これくらいならプレゼントしても……)

「あの、ヒナギクさ――」
「キャーッ!!」

ハヤテがヒナギクに声をかけた丁度その時、女性客の悲鳴が店内に響いた。

「な、何々?」
「何かあったんでしょうか?」

緊張が走る中、ヒナギクがふと足元を見、理解した。

「あ、ご、ゴキブリ~ッ!!」
「あ……」

そう、悲鳴の元凶は漆黒の侵入者であった。
最盛期の夏にはまだ遠い初春の真昼間、突如現れたある意味最強の生物に店内は大騒ぎであった。
他の客たちの例に漏れず、二人も店から飛び出したのであった。



「ふぅ、まさかゴキブリが出るなんて……」
「ははは、災難でしたね」

無事にアクセサリー店を脱出し、再びテーマパーク内を歩き回る二人。

「というか、何でハヤテ君はそんなに平然としていられるわけ?」
「う~ん、まぁ、慣れですかね? 僕はヤのつく職業の人以外に怖いものってほとんど無いんで」

さり気に恐ろしい事を平然と言って笑っているハヤテを見ながら、ヒナギクは内心穏やかではなかった。

(私だけ取り乱してカッコ悪い所を……これじゃアドバイスどころじゃないわよね……)

アドバイスを求めてきた三人の女子生徒たちの顔を思い出しながら、少し気落ちするヒナギクであった。





「これとかどうかしら?」
「いいと思いますよ?」

二人が次に入ったのは洋服屋。
広い店内には、まさに流行の先端が並んでいるといった感じであった。
春の新作が所狭しと並び、何とも色鮮やかな様子である。

「これも可愛いわね~」

ブラウス、スカート、ジャケットと、気になったものを次々に体に当てて鏡を見たり、時には試着をしたり。
買いはしなくとも、組み合わせを考えているだけで中々楽しいものだったりする。
こういう場合男性が飽きてしまうことも少なくないが、あまりこういった機会が無かったハヤテにとっては新鮮で、ヒナギクの様子を見ているだけでも十分楽しめたのだった。

「あ、これ買おうかしら。素敵な割りに値段もお手頃だし」

ヒナギクが試着していたのは、薄手のジャケット。
まだ少し肌寒い日もある春先には、あると便利な一着であった。

「ヒナギクさん、似合いますね~」
「そ、そう? ありがとう」

じゃあこれにするわ、と若干顔を赤らめるヒナギク。
勿論ハヤテはそんな変化に気が付かない。

「それ、昨日入荷したばかりの新作なんですよ~」

そこへ、傍を通りかかった女性店員が笑顔で一言。

「あ、そうなんですか?」

また服に視線を向けるヒナギク。
そんなヒナギクを見るハヤテに、店員が放ったセリフは。

「可愛い彼女さんですね~、着る方が可愛いとお洋服もますます可愛く見えますよね~」
「「え?」」

お約束の勘違いセリフであった。
とは言っても、この状況はそう見るのが普通なのであろうが。

「いや、そ、そんな、私たちそういう関係じゃ……」
「そ、そうですよ、そんな……」
「あらあら、顔真っ赤にしちゃって。初々しくてちょっぴり妬けちゃいますね~」

あたふたとする二人を見て微笑み、更にちょっかいを出す店員。

「と、とにかく、これ買います!」
「ふふふ、可愛いですねぇ」

まだ笑ったまま服を受け取る店員に、赤に染まった顔のまま二人も後に続いてレジへと移動する。

「はい、それでは、お会計四千……あら?」
「どうかしました?」
「それが……」

先程の笑みを苦笑へと変えた店員が、困ったように口を開く。

「申し訳ございません、値札が切れていたみたいで……」
「「え?」」

横に立っていたハヤテと共に、ヒナギクが値札を改めて見る。
何が起こったのだろうか、確かにゼロの横で丁度切れている跡があった。

「えっと、もしかして……一桁違います?」
「はい……」

ある程度財力はある桂家ではあったが、ジャケット一着にこの値段を払うにはかなり勇気がいる。
結局、何も買わずに店を出たヒナギクとハヤテだった。




***



「えぇっと、どうしようか……」
「どうしましょうか……」

陽も暮れかけた頃、どことなく気落ちした様子の二人。
確かに、楽しんだことは楽しんだ。
最初はごちゃごちゃしているように見えた店の群れも、丁度良い間隔で色々な種類の店があり便利であった。
キャラクターの着ぐるみも、すれ違う小さい子供たちが持つカラフルな風船も、心が浮き立った。
しかし、何の因果か、二人が回った先々でハプニングが起こってばかりなのだった。

映画館ではどこも満席で、唯一席が空いていたのはホラー映画。
強がって入ったヒナギクが、泣きはしなかったが危うく気絶しそうになった。

昼食に入ったレストランでは、物珍しい料理に惹かれ注文したものの、実は激辛料理で水を何杯も飲むことになった。

アトラクションの一つに乗る為並ぶと、途中で突如点検といって休止に。

買った二段重ねのアイスクリームの上段が落ちたり、着ぐるみにぶつかって食べ物を落としたり。

(何でこうなのかしら……もしかして私、呪われてる?)
(あぁ~、どうして僕はいつもこう悲惨な目に……)

それぞれ軽く自己嫌悪に陥る。
何とも微妙な空気である。

「あ、ヒナギクさん、観覧車乗りましょうか、観覧車」
「え、えぇ、そうね」

この空気をどうにかしたい一心で、視界に入った物を指差すハヤテ。
同じ気持ちですぐさま同意するヒナギク。

「それと、ちょっと飲み物買いに行って来るんで先に並んでおいてもらえますか?」
「分かったわ」

駆け出すハヤテを見送りながら、ヒナギクはやっと失敗に気づく。

「あ、観覧車って……」

気が付いた時にはもう遅く、呆然としながら並ぶヒナギクであった。





「うわぁ~、綺麗な景色ですね、ヒナギクさん」
「そ、そうね……」

陽も落ち、暗くなってきた辺りはライトアップされ、観覧車の上から眺める景色はかなりの絶景であった。
無論、その絶景を心から楽しむほどの余裕などヒナギクには無く。

「あ、ヒナギクさん、そういえば……」

ハヤテは今頃になって気が付いたのであった。

「だ、大丈夫よ……」

以前歩と一緒に観覧車に乗っていたことが功を奏したか、何とか耐えるヒナギク。
その時に話題となった少年と今まさに同じような状況にいるわけだが、それを思う余裕までは無かった。
再び二人の間に何とも言えない空気が漂う。


「あ、あの、ヒナギクさん!」
「な、何?」

気が気でなかったヒナギクだが、突如ハヤテが出した紙袋に気が付く。

「これ……プレゼントします」
「え? あ、ありがとう」

受け取り、包みを開けたヒナギクは息を呑む。

「こ、これって……」

それは、最初に入ったアクセサリー店で見ていた物と同じ、蝶の装飾が施されたネックレスであった。

「さっき観覧車の近くで、もう一店アクセサリーのお店があるのに気が付いて……
 飲み物を買いに行く振りをして買って来たんです」
「そうだったんだ……ありがとう……」
「いえいえ、喜んでくれたなら嬉しいです」

二人の間から、既に先程の気まずい空気は消えていた。

観覧車の外では、テーマパーク中の明かりにも負けないくらいに月が輝いていた。


(4)


休み明けの白皇学院は、今日も燦々と陽を浴びていた。
四時限目終了のチャイムと共に、弁当を持って机を寄せたり、購買などに向かったりと騒がしくなる生徒たち。
廊下を歩いていたヒナギクは、突如後ろから肩を叩かれ振り向く。

「会長っ」
「桂さん、今日もお昼一緒に食べよ?」
「行こ行こ~」
「あ、あなたたち……」

しまったと思った時にはもう遅い。
三人の女子生徒に半ば引きずられるように連行されたヒナギクであった。

「で、この前の話の続きなんだけど」
「是非会長にご教授頂きたいですねぇ~」
「う……」

白いテーブルに身を乗り出す女子生徒たちは、ニヤニヤと笑っている。
何故かやけに漂う彼女らの気迫に、言葉に詰まるヒナギク。
最後はいい雰囲気で終われたものの、有り得ないほどハプニングだらけだったあの擬似デートが役に立つとは思えない。
結局、ヒナギクが女子生徒たちに出来るアドバイスなど無いに等しく……

「デ、デートなんて言うのはね、男の子に任せておけばいいのよっ!」
「えっ、ちょ、会長?」
「か、桂さん!」

今度は食器を片付ける余裕もなく、慌てて駆けていくヒナギクであった。



***



「なんだ、結局アドバイスとやらはしなかったのか」
「せっかくデートしたのにねぇ~」
「さすがのヒナも、恋愛相談は出来なかったと」

放課後の生徒会室。
ヒナギクよりも先に着き待ち構えていた泉、美希、理沙は早速昼休みのカフェテリアでの様子を聞いたのだった。
勿論、彼女たちはその為だけにやって来ていたのであり、仕事をする気は全く無かったのは言うまでもなく。

「ま、まぁ、そういうものは自分で考えてこそ意味があるのよ」

話を濁しつつ紅茶を飲むヒナギク。
その様子からは、あまり説得力は感じられなかった。

「でもさぁ、ヒナちゃんたち楽しそうだったよね~。
 お買い物したり、映画見たり、美味しそうな物食べたり……」
「いっ、泉!」
「何言ってるんだ!」
「ほえ? ……あっ!」

美希と理沙が慌てて咎め、泉がその意味を理解した頃にはもう遅かった。

「あなたたち……これは一体どういうことかしら?」
「い、いや、ヒナ、落ち着け……」
「べ、別にこっそり後をつけてたとかじゃなくて――」
「後をつけてた……ですって?」
「はわっ!?」

必死に弁解しようとする三人に、逃げ場はなく。
とびっきりの笑顔に怒りのオーラを纏ったその様子に、震えることしか出来ない。
そして、雷が落ちる。

「ちょっとそこに座りなさい!!」
「「「うわぁ~っ!!」」」




こってりと搾られた三人が開放された頃、時刻は既に夕方であった。
色々と精神的に疲れた数日間を過ごしたヒナギクであったが、今はどこかすっきりとしていた。


この後、うっかりとボロを出してしまった泉が美希と理沙に文句を言われたり。
尾行中にカードを落としていたことに気づいた理沙が慌ててカード会社に電話をかけたり。
休日に運悪く、ヒナギクたちが行ったテーマパーク内のメイドカフェに手伝いに駆り出されたハルこと千桜が、尾行中にとっさに隠れに来た三人組に出会ったことを思い出し、正体がバレていないか気が気でなかったり。
ハヤテを誘った時のことで美希がクラスメイトにいじられ顔を赤くしたり。
その様子を聞いたナギにハヤテが問いただされ困ったりするのは、また別の話。


赤く燃える夕日が差す生徒会室で、ペンダントを取り出し眺めるヒナギク。
そっと微笑み、大切そうに一つ撫でるその光景は、一枚の絵画のようだった。


ちなみにこの後、書類を届けに来た愛歌にしっかりとペンダントを見つけられたヒナギクは、休日の出来事を隠すのに必死だったとか。


~ 『矜持が呼ぶ体験談』 Fin. ~
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