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2008.06.21 (Sat)

SS ~『碧に架かる贈り物』~

さて、本日は泉ちゃんの誕生日という事で、満を持して約1年前に書いた処女作、泉誕生日SSを公開しようと思います。
当ブログの名前の由来にもなったこのSS、若干の修正を加えてお届けします♪

【More・・・】

執筆者 jihad   
完結1作目
執筆開始 2007/6月頃
完成 2007/6/25
初出 2007/6/25 [ひなたのゆめ]ハヤテのごとく! / サブ小説感想掲示板
文章量 約21KB

・6/21生まれの瀬川泉誕生日記念として書いた処女作の一話完結。

------------------------------

~ 『碧に架かる贈り物』 ~


 はぁ……
 今日、何度目のため息だろう?

 "ため息をつくと幸せが逃げちゃう"っていうけど、それでもやっぱり出ちゃうものだよね。
 もしかしたら、幸せが逃げちゃったから、ため息をつきたくなっちゃうのかな。
 窓越しに聞こえる雨音を聞きながら、私はまたひとつため息をついた。その瞬間に、雨はもっと激しくなって、私の気持ちはもっと沈んで。
 ため息が、私の気持ちを空に届けたから、それで雨が強くなったのかな?
 それとも雨が、沈んだ気持ちを運んできて、だからため息が出たのかな?
 両方なのかもしれないね。どっちが先かは分からないけど。ただひとつ分かったのは、雨はまだやみそうにないってことだけ。

 またため息が出そうだったから、口を閉じて我慢してみたら、代わりにほっぺが膨らんだ。それでも気持ちは沈んで、体も沈んできそうになって。
 硬い学校の机の上に腕を置いて、それをまくらにして顔を沈めた。ほっぺが腕に当たって、口の中に溜まってたため息が、ただの空気になって出ていった。

 私は、雨って嫌いなんだ。
 濡れるとか、じめじめするとか、そういうのもあるけど。なにより、気持ちまでどんよりしてきちゃうから。心まで濡らして冷たくしちゃうような、そんな気がして。
 私は、やっぱりお日様がぽかぽかしてるのが好きだな。青い空が見えて、あったかくて、そよ風が吹いてきて。そんなほうが、絶っ対、気持ちいいに決まってるもんね!
 だから、雨なんて降らなければいいのに。机に伏せたまま、顔だけ左に向けて窓の向こうを見た。
 降らなければいいなんて考えても、もちろん雨がやんでくれることはなくて。

 まったく、何でこんなことになっちゃうんだろう? ツイてないにもほどがあるよね。まぁ、私が忘れ物なんかしなければよかったんだけど。
 そう、忘れ物さえしなければ。こうなるまでを思い出して、私はまたひとつため息をついた。



 今日は平日だけど、学校はお休みだった。土日に授業公開日があったから、昨日と今日は振り替え休日。
 昨日はいっぱい遊んで疲れたから、起きたらお昼のちょっと前で。寝坊しちゃった分も取り返すくらい遊ばなくっちゃ、なんて思ったときに、ふと気づいた。……忘れ物をしてたってことに。
 机の中に入れっぱなしで、今日になって思い出したの。それは、けっこう前から課題になってた、数学の問題集。しかも提出期限は明日。
 あのまま思い出さなかったら、ほんとに危なかった。課題といっても、テストの出来が悪い私にとっては、それはもう重要なんだよね。数学の先生は、提出物とかを全部出せば、テストが悪くても赤点だけは勘弁してくれるって言ってたの。ってことは、逆に言うと、出せなければ保障はできないってことだよね。
 
 中間テストの数学はほんとにだめだめだった。いくら勉強しても分かんないんだもん。
このままいくと赤点になっちゃうかも。追試もだめだったら留年なんてことに……
 だ、だめだ! 私はいいんちょさんなんだぞ! いいんちょさんが留年なんて、絶対あっちゃいけないのだ。そう、なんとしてでもこの課題は終わらせなくちゃ!
 なんて意気込んだのはいいんだけど。昨日思い出せれば、そもそも忘れなければって後悔しちゃう。ほんとは、残り3ページだったから、さっさと昨日のうちに終わらせる予定だったんだ。
 それで、今日はミキちゃん家にお呼ばれして、ヒナちゃんとかリサちんとか、みんなで集まってわいわい騒いでるはずだったのに。私ってばほんとにおバカさんだなぁ。
 ……まぁ、どっちにしても、みんな急に都合が悪くなっちゃって。
 集まるのは明日に延期ってことになったから、課題をやる時間はたっぷりできたんだけど。
 よかったんだか、よくなかったんだか。……いや、全然よくないに決まってるんだけどさ。

 もし、課題を忘れないで昨日終わらせてたら。みんなの都合も悪くならずに、今日はみんなと過ごせれば。
 ミキちゃんは『明日は、今日できなかった分も盛り上がれるように用意しとくから』って言ってくれたけど。やっぱり、今日みんなと居たかった。それがいちばんよかったのに。みんな都合が悪くなるなんて、運の悪いことは重なっちゃうもんなんだね。
 
 そして、いやなことはさらに重なっちゃったわけで……

 頑張って学校まで来たけど、誰もいない学校はお昼過ぎでもけっこう怖かったんだ。こういうのって、何だか苦手なんだよね。寂しいっていうか、なんていうか……
 やっぱり学校は賑やかじゃなくっちゃ、なんて考えながら教室へまっすぐ向かって。すぐ見つけて、すぐ帰ろうとして机の中を探した私。
 でも、問題集は見つからなかった。ロッカーの中も、生徒会室も、落とし物のコーナーも探したけど、結局なかった。

 1時間くらい探しても見つからなくて、もう一回教室に戻ってみたら、隣の子の机の中に入ってた。
 あれだけ探したのに、こんな近くにあったなんて……そりゃないよね。今までの苦労はなんだったんだろ。
 落ちてたのを誰かが拾って入れてくれたんだと思うんだけど……ちゃんと名前書いてあるんだから、間違えないでよぉ~!



 そんなことをしているうちに、気がつくと雨が窓を叩く音が聞こえて。無駄なことをして疲れて、傘がないから帰ることもできなくて。
 仕方なく机に座って、今こうしてため息ばかりついているわけだ。
 前にナギちゃんが、「お前はいつも笑ってて楽しそうだな」なんて言ってたけど……みんながいるから、誰かがいるから、楽しくて笑顔になれるんだよ。
 一人ぼっちで、雨の音しかいない教室にただ座っているだけ。いくら元気なのがとりえの私だからって、こんな状況で笑っていられるわけないのだ。
 本当は、今頃みんなで笑ってるはずだったのに。とってもいい一日になるはずだったんだけどな……
 考えれば考えるほど頭が重くなってきて、いやなことを考えないように目をつぶった。


◇ ◇ ◇


「……あれ?」
 ふと気付くと、どうやらいつの間にか寝ちゃってたみたい。机に伏せたまま考え事をしてたからかな。
 時計を見ると、あれから1時間くらい経っていたのに、雨の勢いは変わってなかった。何もすることがなくて、早く帰りたいのに、この雨の中じゃ帰れない。どうしよう。

 職員室に落とし物の傘とかないかなぁ、なんて期待して行ってみた。けど、こういう時に限って無かったりする。
 ならせめて時間を潰せないかな、って思っても、名前も知らない先生が2人居ただけ。
 そうだ、桂ちゃんならいるよね、と宿直室に向かう途中で、出張だったことに気づいて。
 なんか小さいけど嫌な事が重なるなぁ、なんてぼやきつつ、教室に戻ってきたけど、この寂しい雰囲気の中だと、何だか課題をやる気分にもなれないし。
 仕方なく、気を紛らわすためにケータイを出して開いた。
 …………ん?
 そうだ、ケータイがあったんだ! これで助けを呼べばすべて解決! どうして私、もっと早く気づかなかったんだろう?
 そうと決まればさっそく電話しなくっちゃ。繋がるまでの時間ももどかしいな。

「もしもし、お嬢?」
「あ、もしもし? 虎鉄君? 今学校にいるんだけど、雨が降って帰れないから迎えに来てくれる?」
「いきなりそんな事言われても……今リゾート21黒船電車の限定プラモを買うため並んでる最中で……」
 プ、プラモって……ひどいよ虎鉄君。私よりプラモデルの方が大事なの~? 
 もうっ、虎鉄君は私の執事でしょ。しっかりしないと怒っちゃうぞ。
「いいじゃんそんなの~! 私が困ってるんだぞ~?」
「そ、そんなのとは何だそんなのとはっ! 今日だってもう何時間も並んで、途中で雨も降ってきて、それでもずぶ濡れのまま耐え続けて。あとちょっとで買えるというのに……そもそも、今日は好きにしていいという約束じゃないか!」
 あらら、逆に私が怒られちゃった。確かに今日はお休みだし好きにしていいって言ったんだよね。それなのに、ここで無理やり来させたら可哀想だしなぁ。
 でも私だって困ってるし、どうしよう。とりあえず、終わったらすぐに来てって言っとくしかないかな。
「じゃあさ……」
「大体、お嬢は分かっていない! ただのプラモデルじゃないんだぞ?
 超限定20台で、今を逃すと絶対買えない、ファンならヨダレ物のデラックス版! それが――」
「あの……」
「――あぁ、リゾート21黒船電車。何と素晴らしいのだろう? あのシャープで美しい、見る者……否、魅せられた者を虜にする魅惑のフォルム。
 漆黒のボディが迫り来る様には畏怖さえ覚える。当時、突然来航した黒船に驚いた幕末の人々はこんな気持ちだったのだろうか? あぁ――」
「ねぇ……」
「――そしてお洒落な車内は、当時の状況に関する資料が展示されてあり歴史に浸ることができる、ただ乗るだけではない、心から楽しむことのできるという素晴らしい電車! 
 ……それが忠実に再現されたこのデラックス版を目の前にして、買わずにいられるか? 否! 断じて否ぁぁ!」
「ちょっと……」
「そんな至高の一品を、お嬢はみすみす見逃して帰れと言うのか!?
 この日のために、この日のためだけに! 私がどれだけ期待に胸膨らま――」
 
 あ、思わず切っちゃった♪
 今の虎鉄君に何を言っても無駄みたいだしねっ。あの虎鉄君だもんね、あきらめよう。期待した私がおバカさんだよねっ、うん。
 まあ、たまのお休みくらい好きにさせてあげなきゃ虎鉄君グレちゃいそうだし、しょーがないしょーがないっ♪
 ……なんて元気を出してみても、帰れないのに変わりはないんだけどね……

 はぁ……
 またため息が出ちゃった。まったく、電車を語りだしたら手がつけられないんだから。虎鉄君らしいっていえばらしいんだけど……執事って、あんな調子でいいのかなぁ?
 他のお家の執事さんって、虎鉄君とは全然違うんだよね。主のためなら命も懸ける、って感じだし。いや、そこまで堅苦しいのも困っちゃうけど、やっぱりこういうときくらいは迎えに来てほしいよね。

「あぁ~あ、ハヤ太君とかだったら、ナギちゃんが呼べばすぐに飛んでくるんだろうなぁ~」
「僕がどうかしましたか?」
 ……ほえ? 今何か聞こえたような?
「……うわぁ!? ハ、ハヤ太君!?」
「いや、そんなに驚かなくてもいいじゃないですか……まぁ、僕も誰かに会うなんて思ってもみなかったので、瀬川さんを見つけたときには驚きましたけど」
 そう言ってハヤ太君は苦笑いを浮かべている。
 そんなこと言われてもしょうがないじゃない。何となくひとりごと言ったらその本人が出てくるんだもん。そりゃ誰だってびっくりするよ。心臓に悪いじゃない、もうっ!
「それで、ハヤ太君は何しに来たの?」
 驚きでドキドキした心臓をやっと抑えて、聞いてみた。
「いやぁ、課題の問題集を忘れてしまいまして」
「あ、私と同じだったんだ……」
「そうだったんですか、それは奇遇ですね~」
 まさか同じ理由で来るとはびっくりだね。三千院家の執事さんも意外とうっかり屋さんなんだ。
 でも、ちょうどよかったかも。この雨の中一人だと気持ちも沈んできちゃうけど、誰かがいれば楽しくなるもんね。せっかくだから、しばらくおしゃべりに付き合ってもらおうかな。
 あ、でも、まだ課題がたくさん残ってたら悪いし……まぁ、ハヤ太だったら、私より進んでると思うけど。
「ハヤ太君は、あとどれくらい残ってるの? 私は3ページなんだけどさ」
「僕は最後の1ページですね。本当は日曜日には終わるはずだったんですが」
 やっぱり、私より進むの速いみたいだね。ハヤ太君真面目だし、計画的にやってそうだしなぁ……私は今日中に3ページもやらなきゃいけないのに。最後の方は難しそうだし、気が滅入ってくるよ。ハヤ太君は後1ページなら、もうすぐ終わるだろうし。
 ……ん? ……あ、そうだっ! いいこと考えちゃった♪

「ねぇねぇ、ハヤ太君、一緒にここで課題やろうよ!」
「ここでですか? 別にいいですけど……」
「それでさぁ、ハヤ太、後1ページってことは、私より早く終わるよね?」
「……まさか……」
 そう、ハヤ太君、そのまさかなのだ。
「終わったら私に写させてねっ」
「やっぱりそう来ましたか……」
「もっちろん♪」
 またもや苦笑いのハヤ太君。だって、しょうがないじゃない。ハヤ太君のほうが私より頭いいんだし。
「でも、教えるならまだしも、写すのはあまりよくないんじゃないですかね? あんまり甘やかさないように、とヒナギクさんからも言われてますし。なんでも、『人にすぐ頼ってちゃ自分たちのためにならない』だそうで」
 うっ……
 確かにいつも写させてくれないけど、まさかハヤ太君にまで念を押しておくとは。やってくれるなヒナちゃんめ。でも、この程度のことはなんともないのだ! いいんちょさんの底力を、見せてあげるよっ。

「なんだかんだ言いつつ、ちゃんと写させてくれるのがハヤ太君だよね、ありがとっ」
「え? ちょっと……」
「いやぁ~、さすがは"三千院家の執事君"だ。うちの虎鉄君とは大違いだね~」
「いや……」
「多分、"三千院家の執事君"って、教えるのもすごく上手なんだろうなぁ~。
 すごいよね~、"三千院家"って」
「ちょ……」
「ほんと、"三千院家の執事君"は親切で優しくて、"執事"の鏡だよね。"主のナギちゃん"も鼻高々だ~」
「……分かりましたって、お教えしますよ……」
「ほんと? ありがと~!」
 やった、勝利~! "三千院家"って名前を持ち出せば、きっとナギちゃんの顔を立たせるために折れてくれると思ったんだよね。う~ん、頭と話術は使うものだね。思い知ったかハヤ太君、これがいいんちょさんの力なのだ!

 そしてしばらくして、私は無事に課題を終わらせることができた。
「いや~、ありがとね、ハヤ太君。助かったよっ」
「いえ、お役に立ててよかったです」
 結局、ハヤ太君はちゃんと写させてくれた。だけど、やっぱり写させるだけじゃよくない、って言って分からないところを教えてくれたんだ。
 ほんと真面目で熱心な人だよね。虎鉄君に爪の垢でも煎じて飲ませてあげたいくらいだ。
 ……いや、やめとこう。ハヤ太君のだったら、よろこんで飲みそうで怖いし。


「でも、あまり分かり易くない説明ですいません」
「いやいや、全然そんなことないよっ。感謝感謝なのだ♪」
 謙遜するハヤ太君だけど、教え方はけっこう分かりやすかった。自分ではあまり頭はよくないって言ってるけど、編入試験を通ったからにはそれなりにできるんだよね。もちろんナギちゃんとかヒナちゃんとかには全然及ばないけど、少なくとも私なんかよりは断然上にいる。
 私なんか赤点ギリギリだし。ほんと、私ったらなんでこんなおバカさんなんだろう? ……はぁ~、なんかへこんできちゃった。

「どうしたんですか? ため息なんかついて」
「ほえ?」
 言われるまで気づかなかった。無意識のうちについちゃったみたい。
 そういえば、今日ため息ついてばっかりだなぁ。嫌なことばっかりだったし。
「いやぁ、私ってバカだな~、って思っただけ。それに、今日は色々とツイてなくてさっ」
 私は今日の出来事をハヤ太君に聞いてもらった。まぁ、口調は軽めに話してるんだけど。
「なるほど。それは散々でしたねぇ……そんなに重なるとは、まるで僕みたいですね」
 はは、確かにそうかもしれない。でも、ハヤ太君に比べたら小さいことだと思うけどね……でも、何で今日はこんなにツイてないんだろ?
 やっぱり、雨だからかなぁ。

「ねぇ、ハヤ太君」
「なんですか?」
 目を合わせてくれたハヤ太君に、私は静かに聞いてみた。
「雨の日ってさぁ、気持ちが沈んできたりしない? 私さぁ、なんで雨なんか降るんだろう、って思っちゃうんだ」
「そうですねぇ、確かにそういうときもありますけど」
 私にとっては、そういうときばっかりなんだよね。
「ほんと、いいことが全然起こらないし。雨なんて、降らなきゃいいのにな、って」
「まぁ、僕はそんなに嫌いじゃないですよ」
「そっか……」
 やっぱり、人それぞれ考え方って違うもんだよね。

 しばらくじっと考えていたら、ふとハヤ太君が口を開いた。
「でも、それだけでため息をついたわけでもなさそうですよね」
「え?」
「いやぁ、さっきのツイてないこととか、雨のこととか以外にも何かあったんじゃないかと思いまして」
 ……たしかに、言われてみれば、一番沈んでいる原因はあれかもしれない。ハヤ太君、こういうときだけやけに鋭かったりするんだよね。
「うん、ほんとは今日、皆で楽しく騒いでたはずだったのに、って思ったらね」
 そう、今頃、みんなに囲まれて楽しく笑ってたはずだった。もちろん、こうしてハヤ太君と会えたことは全然嫌じゃないんだけど……やっぱり、今日はみんなで笑っていたかったんだよね。
 自分でもつまらない顔になっていくのが分かって。ハヤ太君に心配させちゃいけないな、なんて思っても笑うことができなかった。
 案の定、ハヤ太君は何か考えこんだような顔をしてた。

「瀬川さん、そろそろ帰りましょうか」
「……え……うん……」
 一転して、優しく微笑んだハヤ太君は、ただそれだけ言って立ち上がった。





 ハヤ太君と一緒に、昇降口まで来たのはいいんだけど。
「あれ? 瀬川さん、どうかしましたか?」
 そうだよ、私、帰れないからずっと教室に居たんだった。
「私、傘がなくって帰れなかったんだよね……」
「何だ、そうだったんですか。じゃあ僕の傘に入ってください」
 あっさりと、ごく自然に、笑顔で言ってのけるハヤ太君。ていうかこれって……相合傘ってことだよね?
 まぁ、こういう流れをまったく予測してなかったわけじゃないんだけどさぁ。
「どうしたんですか? 早く行きましょう」
「う、うん」
 ちょっとためらいつつハヤ太君の隣に入った。傘にふたりで入るから、ふたりの距離もすごく近いわけで。
「あれ? 瀬川さん、少し顔が赤いですよ。熱でもあるんじゃ……」
「ほえっ!?……そ、そうかなあ。気のせいじゃない?」
「そうですか。ならいいんですが」
 やっぱり、何とも思ってないんだよね、ハヤ太君。濡れちゃうといけないから傘に入れるのは当然、っていう考えなんだろうなあ~。
 いくらそんなハヤ太君だからって、男の子なわけだし。やっぱり相合傘は恥ずかしいに決まってるじゃない。赤くなって当然だよぉ……
 まったくもう、この鈍感執事君は……


 帰り道を、ひとつの傘にふたりで歩いていく。ハヤ太君がときどき、「あじさいが綺麗ですね」とか「カタツムリがいますよ」とか話しかけてきて。私は「うん、綺麗だね」とか「あ、ほんとだ」とか呟くだけで精一杯で。特にハヤ太君を意識してるってわけじゃないけど、やっぱり少し恥ずかしくて。
 雨で人がいないのが救いかななんて思いつつ、木に覆われた小山で挟まれた、長くて緩い坂道を下ってゆく。とくに続く会話があるわけじゃなく、人も車も通らない。いくらか弱くなってきた雨が、アスファルトを叩く音だけやけに目立って。
 でも、そんな沈黙も全然嫌じゃない。いつもとちょっと違う、不思議な時間だった。

「雨、止みましたね」
「あ、ほんとだね」
 傘を閉じるハヤ太君を見ながら、やんじゃったのがちょっぴり残念な気もした。もうちょっとあのままでいてもよかったかな、なんて。
ほんとにちょっぴり、そう思った。

「瀬川さん、ちょっといいですか?」
 突然立ち止まって、私のほうを見るハヤ太君。
「どうしたの?」
「ちょっと、こっちに来てもらえます?」
「え、うん……」
 そう言ってハヤ太君は、歩道の脇に立つ小山の、林の間に入っていった。こんなとこに入ってどうするんだろう?
 薄暗くて足場も悪い上り坂は、人一人通れる分だけ草が踏みならされて、一本の道ができていた。途中で足を取られて転びそうになったりもしたけど、そのときはハヤ太君が手を貸してくれた。
 そのまましばらく登っていくと、ハヤ太君がこっちを振り返った。


「着きましたよ。ここです」
「うわぁ……」
 急に視界が開けて、一面に空が見えた。太陽は雲に隠れてるけど、白い雲の間から透き通った空が見えて。
 ここは崖になっているみたいで、下には遥か小さくなった町並みが広がっていた。白皇の時計塔よりも高いみたい。建物がすごく小さく見えて、とにかく圧倒された。
「こんな場所があったなんて、知らなかったよ」
「偶然見つけたんです。……本当は、誰にも教えたくなかったんですけどね。
 僕だけの秘密の場所にしておくつもりで、お嬢さまにすら言ってないんですよ」
 え? じゃあ、何で私に教えてくれたんだろう?

「学校にいたとき、今日は散々だったって言ってたでしょう?」
「ほえ?」
 少し考えて、気づいた。ハヤ太君は私の疑問を読み取って答えてくれたんだ。
「この景色を見てると、どうでもよくなってきませんか?」
 たしかに……
 今日ずっと感じてた、もやもやした気持ちもいつの間にか消えていたみたい。ここから見える建物のように、小さいことに思えてきた。


「あぁ、そうだ。瀬川さん……誕生日おめでとうございます」
「…………へ?」
 突然のことで、言葉の意味を理解するのには時間がかかった。
 しばらくして、今日私が1番欲しかった言葉をかけてくれたことに気づいた。
「……あ、ありがとう……1回しか言ってないのに、覚えててくれたんだ……」
「ええ。もちろんですよ。ただ、覚えてはいたんですけど、今日は学校がお休みでしたからね。どうしようかと悩んでいたんですが、お屋敷のほうに『明日誕生日のパーティーをやるから二人で来てくれ』と花菱さんから電話が来たもので……それじゃあそのときに言おうかと思ってたんですが、まさか偶然会うとは、ね」
 そっか、ミキちゃん、二人も誘ってくれてたんだね。そういえば、今日できなかった分も盛り上がるようにしてくれるって言ってたっけ。
 嬉しかった。ハヤ太君に祝ってもらえたことも、ミキちゃんたちが頑張って用意してくれてたことも。なんだか元気が出てきて、ちょっとハヤ太君をからかっちゃおうかな、なんて余裕もできてきた。
「なるほどね~。……でも、もしかして、連絡があったから思い出したとかじゃなくて?」
「え?……ち、違いますよ! ちゃんとプレゼントだって用意してありますし! ただ、まさか今日会うとは思わなかったので。……でも、せっかく当日に会ったからにはやっぱり何かプレゼントしてあげたいなと思って。せめてこの景色を、と」
 
 ちょっと驚いちゃった。ちゃんと覚えてくれてた事は分かってたけど、そこまで考えてくれたんだ、って。ハヤ太君って……ほんとに優しいんだね。やっぱり、当日に"おめでとう"って言ってもらえたほうが嬉しいもんね。
 今日みんなに会えなくて沈んでた気持ちは、全部どっかに飛んでった。

「ありがとっ、ハヤ太君。……なかなかニクいことしてくれるねぇ~、このぉ~♪」
「もう、からかわないでくださいよ。それに、まだ終わってないんですから」
「え?」
 まだ終わっていないって、どういうことだろう? プレゼントは今持ってないはずだよね?
「さっき、雨は嫌いだ、って言ってましたよね?」
「え、うん……」
「でも、いいこともあるんですよ。多分もうそろそろだと思うんですが……」

 そう言ってハヤ太君は、顔を街の方へと戻した。私もつられて見ると、ちょうど雲が晴れて、お日様の光が差し込んできた。
「……ほらね?」
「あ……」

 遠くの空に、光を受けて。七色に輝く虹が、眩しかった。

「ちょうど雨上がりだからもしやと思ったんですが、上手くいってよかったです。こっちが、今日のメインのプレゼントですよ。
 ……この場所は、誰にも言っちゃダメですからね?」
「……うん……」
 やっとのことでそれだけ口にした私は、そのままずっと虹を見続けていた。


 どうやら、最高のプレゼントをもらっちゃったみたいだね。
 雲が浮かぶ碧い空に架かった、七色に煌めく贈り物。
 空を仰げばみんなが見られるけど、ここからの景色を見られるのは二人だけ。私のためにプレゼントしてくれた、最高の景色。
 今まで、雨の日なんて嫌いだったけど。こんな素敵な景色が見られるのなら、悪くないね。
 教えてくれたハヤ太君に感謝しなくっちゃ。それと、雨の女神さまと、太陽の神さまにも感謝しなきゃかな。

 これから、雨上がりの日はここに来よう。どんな嫌なことがあっても、空と一緒に心も晴れてくれるんだろうな。
 そう考えると、なんだかすごく楽しみになってきて。

 雨の日も、大好きになれそう♪


Fine.





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お読みいただき、ありがとうございました。
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